★紹介者

AM37歳、男性、会社員



「あなたの大切な人に薦めたい本、生涯の1冊は何ですか?」


この一文を見た瞬間、真っ先に思い浮かんだのは、先月
2歳になったばかりの長男の顔と、この本、「きらめきのサフィール」である。

 

物語の冒頭はこうだ。

 

むかし むかし

ひとりの若い騎士が白い馬に乗って

はるかな国へ旅立っていきました

その国はきらめきの国

今はもうだれも知らない

けれどだれもが知っていた

不思議な物語の世界でした

 

どこで読んだ物語だろう。

なんというお話だったのだろう。

この文章を思い出すたびに、胸のなかが、ほんのひととき、暖かくなる。

 

その後に続くのは、この物語の主人公である『青山ココロ』がクラスメイトからひどいいじめを受けているシーンだ。

この物語の主人公「青山ココロ」は小学校6年生で、言葉を話すことが出来ない。

そんな彼をクラスメイトは「冬眠」と呼び、言葉が話せないから、まるで人としての感情も存在していないと決めつけたかのように、心ない言葉で罵り、暴力を加える。

 

そんなココロは家庭でも居場所がなく、母も父も、ココロに対して優しく接することはなく、むしろ邪魔者のように扱っている。

ココロの家の階段の壁にかけられた、立派な額縁に収められた絵について、ココロの父は「お前より何倍も価値のある絵だ」と言う。母は自分の思い通りの反応をしないココロに苛立ち、シャッター付きのガレージにココロを閉じ込めてしまう。

こういった場面を見ても、いかにココロが両親からも愛されていないかがわかり、まるで自分のことのように胸が締め付けられる。

彼の心の癒やしは、「エリウス」と名付けた古い自転車だけだ。

ココロはこの自転車に、たくさんのことを心の中から話しかけ、孤独を癒やす。それだけである。

 

物語はそのココロが突如、彼が「きらめき」と呼ぶ不思議な光に包まれた後、全く別の世界「サフィール」に迷い込み、そこで始まる彼の冒険に切り替わる。

 

どういうわけか、この異世界、サフィールでのココロは普通に自分の声で話しが出来る。

彼の自転車のエリウスは、立派な白馬となり、彼を背にこの世界を共に進んでいく。

この世界の住人たちは彼を「青い騎士」と呼び、世界を闇から救う救世主だと持て囃す。

 

「青い騎士、ココロ」に定められた目的は一つ。

世界を闇に包み込んでいる存在、魔王ジュダを倒し、光を取り戻すこと。

 

そんなココロの物語は、困難の連続であり、決して異世界で超人的な力を身につけたココロが、小気味よく数多の敵を倒していくような、痛快劇ではない。

言語を得たものの、彼に襲いかかる敵は、彼の肉体だけでなく、心にまでも傷を与え、彼だけでなく、この物語を読んでいる私までもを試し続ける。

襲いかかる敵、初めて出来た仲間との別れ、心奪われた少女の裏切り、そういった出来事がこの世界でのココロの存在も否定するかのように映し出す。

現実世界でそうであったように、ココロが誰にも必要とされていない、孤独な存在かのように。

 

高校生の私は、引き込まれるように読みきってしまったものの、その本が何を伝えようとしていたのかについては最後まで分からず仕舞いだった。

そしてそのまま、20年近くが過ぎ、すっかり大人になった私は、結婚し、子どもにも恵まれた。

2番めの男の子が生まれた頃、ふとした事でこの本を思い出し、どうしてももう一度読みなおして見たい衝動にかられた。

近くの書店や図書館などを探したが見つからず、諦めきれない私は実家からわざわざ郵送してもらい、去年もう一度この本を読み直すことができた。

そして、ようやくこの作者が伝えたかったことに、自分なりの答えが見いだせたような気がした。

 

高校生当時の私は当然、ココロに自身を投影して物語を読み進めていた。

だが、20年後の私は、むしろココロを純粋な一人の少年として、もしかしたら将来の息子と重ねあわせて読んでいたような気がする。

そして、光とは?闇とは?本当の勇者とは?について、もう一度考えることが出来た。

ただ、それに対しての明確な答えは本文にも書いておらず、あとがきにも書いていないので、自分なりの答えにしか出せないが、少なくとも高校生当時の自分には見えなかった、物語に隠された主題が見えた気がした。

何か特別な力があるから勇者なのではなく、主人公ではなく、特別な存在というわけではない。

自分に襲いかかる試練や困難、誘惑、それらにどう向き合い、乗り越えていけるかが、自分の物語であり、キレイにかっこ良く解決するからヒーローということでもない。

むしろ結果をおそれず、逃げることがあっても、いつかはそれに立ち向かう姿勢が大切なのだと。

 

ココロは幾度の試練に耐え、悲しみを越え、魔王ジュダを倒した後、元の世界に帰ってくる。

ふたたび光に包まれてこの世界に戻ってきたココロを見つけたのは、(残念ながら)両親ではなく、両親から出された捜索願いを受けて、ココロを探していた警察官だ。

警察官はココロに対し、やさしく真心のこもった声でココロの帰還を喜ぶ。

 

「きみはしゃべれないそうだから、どこへ行っていたかなんて教えてはもらえないだろうけれど、もどってきてくれただけでうれしいよ。」

真心のこもったその人の声に、ぼくはははっきりと応える。

「僕はサフィールというきらめきの国に行っていたんです。」

おまわりさんは驚いたようにぼくを見つめた。

 

僕はサフィールで騎士だった。

主人公だった。いちばんたいせつなそんざいだった

人はだれでも、心の中のサフィールで、主人公なんだ。

人はみんないちばんたいせつな存在なんだ。

 

この本を、私から息子に勧めるつもりはない。ある日偶然、私の本棚からこの本を見つけ、きまぐれに読んでくれれば、そしていつか自分に子どもができたら、この本を読ませてあげたいと思ってくれればそれで良いと思う。