間の楔 1 (キャラ文庫)
吉原 理恵子
徳間書店
2009-03-27


★紹介者

AK 、 28歳、女性、フリーランスアーティスト



 
現在では、BL(ボーイズラブ)という作品ジャンルが確立されて、女性を中心に当たり前の読まれるジャンルの一つとなっています。

 

しかし、男性や所謂オタクではない方々は、絶対に手に触れる事はないでしょう。

小説全般好きで読む立場として、今回は敢えて一部の方しか手を出さないジャンルとされているBL作品をご紹介したいと思います。

 

それが、吉原理恵子様の『間の楔~あいのくさび~』です。

 

実は私も小説を読むのは好きでも、特に男性同士の恋愛を描いた作品には、抵抗があったうちの一人です。

 

学生時代に友人から、これだけは絶対に良いからと勧められ、つまらなかったらすぐに返そうと思っていた、初版の『間の楔』を借りた事でこの本に出会いまた。

 

1ページ目を開いた瞬間から、その凄さが分かりました。

文字なのにまるで生きているような、いきなり脳内に直接幻想的な特殊な世界が映像として見えてきたのです。

 

作風はSFなのですが、初版は1986年というとても古い作品なのに、機械が人間を管理するという、まさにIT産業が盛んな現代を風刺したような、問題提起をされているような世界で、展開していく作風は、まさにハリウッド映画の様でした。

 

男性を増やし、女性を減らして、自由に人間が繁殖できない世界で、人口頭脳により管理された人間たち。

そこでは、人が人ではなく、完全なる格差社会を描いています。

 

男性しかいない世界では、性的欲求を男性同士で吐き出され、楽しみはドラッグ等しかない。

 

細かい設定や、その展開が、まさに小説として幻想的であり、これは女性たちが男性だけの恋愛の妄想を楽しむために作られた娯楽作品ではなく、芸術作品なのだと衝撃を受けました。

 

スラム街でいきている、リーダー格のカリスマ『リキ』と、世界を牛耳るIP頭脳により作られた、半分人間で半分ロボットのブロンドと呼ばれる、所謂貴族階級の『イアソン』。

出会うはずのない二人が、リキの頭の良さからくる悪戯心から出会い、『イアソン』が『リキ』に興味を抱くところから、二人の関係は始まります。

 

それは、主人とペットという、決して恋愛ではない関係です。

 

今でもBL系ではよく好まれる、俺様主人と奴隷の関係からの展開とは全く違います。

 

格差社会に常識を受け入れがたい人間らしい気持ちと、世界を管理する立場の最高頭脳が、人間らしさを取るのか、それとも完全なる合理性を取るのか。

常に感じさせられるのは、人間らしさの感情をえぐってくるような、時に胸が痛くなり、しかし人間の本来あるべき感情とは、こうではないのか?

 

各方面からの問題提起の連打に、感情が左右されるのです。

 

同じ立場の人間同士の足の引っ張り合いや裏切り、その対価として落ちていく姿。

人間が今、人間の為だからと遺伝子操作をして、人間の為に有益だと動物を作りだす行為を、人間でされている世界。

 

まさに社会を風刺した部分も感じられる世界の中で、完全なるブロンドであった『イアソン』が『リキ』の人間らしさに、引きずられ、捕らわれて、自分の利害がすべての思考回路が崩れていく姿は、とても悲しく、しかし愛おしく感じる事が出来ます。

 

 

ネタばれになるので、二人がどんな選択をするのかは、是非とも読んで頂いて確認してほしいですが、これは男女関係なく・・・

BLというジャンルに嫌悪を感じる人でも、芸術的な小説作品として読んで頂きたいと思います。

 

当時からの熱烈なファンの声に反映されるように、この当時としては異例な、ビデオアニメ化。CDドラマ化。イメージミュージックCD

まさに、男性同士の恋愛小説の世界に金字塔を打ち立てた、師玉の名作となっています。

 

初版本が販売されてから、長い時間を経て、原作者の吉原理恵子様自身が、単行本として加筆を加えてシリーズ化されて再販されています。

 

長くなった分、初版本の世界観の語られなかった真実がよく読み取れますが、所謂濡れ場のシーンも激しくなっているので、芸術作品小説しては、初版本をお勧めしたいかなと思います。

 

私は、吉原理恵子様の文章との相性が良いのか、全く抵抗なく読めますが・・・

そういうシーンが多いと抵抗がある方も多いと思うので。

 

文字を読むのが苦手な人でも、文章としてとても読みやすく、何よりも何度も読みたくなるような、深い構成力。そして言葉の運び方の上手さが、この名作が一部のファン層にアピールしている作風であり、何十年も前の、そういう趣向に閉鎖的だった時代でさえ、それだけの支持を得ていた証拠ともいえるのではないでしょうか?

 

だからこそ、もっと【間の楔】を読んで、どこに問題提起を感じてもらってもいい。

共感してもらってもいい。

一人でも多くの方が、この作品に出会って欲しいなと思いました。

 

 

私が個人的に好きなのは、やはり、この二人が選んだラストです。

 

それが、愛なのか?

それとも、情なのか?

 

私は、恋ではない、真の愛とは、きっとどこかで気付くものではなく、こうやって最後の最後で分かってしまう気持ちなのかもしれないと、最後のエピソードだけ何度も読んで、泣きました。

 

色んなキャラクターが出来てきて、どれも人間らしいし、どれもきっと自分の中にある感情をダイレクトに伝えてきてくれるので、好きになれないキャラクターの事も、何故嫌いなのかを考えると、自分も同じ立場ならやってしまうかもしれない。

否、自分はこっち側の人間なのかもしれないと、似ている事に不快を感じるのかもしれないと感じるキャラクターも沢山います。

 

世界観。問題提起。風刺。そして・・・真の愛とは?

間の楔とは?

 

答えはきっと『リキ』と『イアソン』のように、誰も出せないかもしれないけれど、だからこそ、感じて欲しいと思いお勧めさせて頂きました。